← 記事一覧

もしも、自動販売機が勝手に商品を選んできたら


もしも、自動販売機が勝手に商品を選んできたら。

駅で飲み物を買おうとして、自動販売機の前に立つ。すると、ボタンを押す前に一つの商品が受け取り口まで出てくる。

画面には「今日はこちらがおすすめです」と表示されている。

商品を受け取ってから料金を払う。気に入らなければ、別の商品を選び直せる。

その日の気温や時間、過去の購入履歴などから、その人が選びそうな商品を先に出してくれる自動販売機だ。

商品を並べて待つだけだった機械が、買う人によって出すものを変えるようになったら、身近な買い物も少しずつ変わっていく。

朝から飲み物を選んでくれる

駅へ向かう途中、いつもの自動販売機の前で立ち止まる。

すると、温かいコーヒーが出てくる。

昨日は冷たい水、その前の日はお茶だった。購入履歴を見ると、朝はコーヒーを選ぶことが多い。

気温が低い日は温かい飲み物、暑い日は冷たい飲み物。朝はコーヒー、午後はお茶。過去の買い方と、その日の条件を組み合わせて、商品を決めている。

画面には「最近、朝に選ぶことが多い商品です」と表示される。

自分で商品を探さなくても、毎日の習慣に合わせて候補が出てくる。

ただ、いつも同じものが出てくるわけではない。

昨日コーヒーを買ったから今日はお茶、というように、直前の購入まで考えて商品を変えることもできる。

自分の好みまで知られていく

便利になるほど、気になることも増える。

自動販売機が商品を選ぶには、その人が何を買ったのかを記録しておく必要があるからだ。

よく買う飲み物、買う時間帯、季節による変化などが記録される。

駅ではコーヒーをよく買うのに、学校の前ではスポーツドリンクを買う。夏になると冷たいお茶が増える。休日にはそもそも駅の自動販売機を使わない。

こうした情報が積み重なると、自動販売機ごとに違うおすすめが出てくる。

そこで、購入履歴を残さない設定も必要になる。

この設定を選べば、その人が過去に何を買ったかは使わず、その場の気温や時間、商品の在庫などだけで選ぶ。

「自分の好みを覚えてもらう」か、「毎回その場の条件だけで選んでもらう」か。

自動販売機を使うときに、そんな設定を選ぶ時代になる。

おすすめが外れることもある

どれだけ記録があっても、毎回ぴったりの商品が出てくるわけではない。

暑い日に冷たい飲み物が出てきた。でも、今日は温かいものが飲みたい。

いつもコーヒーを買っているけれど、今日はジュースが飲みたい。

そんな日もある。

そこで、自動販売機には「今日は違う」というボタンがつく。

おすすめの商品を取り消して、別の商品を選ぶ。すると、その日の購入結果も次回のおすすめに使われる。

暑い日に温かいお茶を選んだことが何度もあれば、気温だけを見て冷たい飲み物を出すことは少なくなる。

自動販売機が一方的に決めるのではなく、買う人が選び直すことで、次の商品にも影響が出る。

自動販売機同士がつながる

同じ人が、朝は駅、昼は学校や会社、帰りには別の駅で自動販売機を使っているとする。

朝にコーヒーを買ったのに、昼にも同じコーヒーが出てくる。

それでは、せっかく購入履歴を使っている意味があまりない。

そこで、自動販売機同士が購入情報を共有する仕組みができる。

朝にコーヒーを買った人には、昼はお茶を出す。昼にスポーツドリンクを買った人には、帰りには水を出す。

一日の買い物を見ながら、次の商品を変える。

ただし、すべての自動販売機が勝手に個人の購入履歴を共有するわけではない。

利用者が登録したサービスの中で購入履歴を共有するかどうかを選び、その設定に合わせて複数の自動販売機が同じ情報を使う。

一台ずつ別々に商品を選ぶのではなく、一日の買い物全体を見ながら次の商品を決められるようになる。

場所によって中身まで変わる

商品を選ぶ仕組みが進むと、自動販売機に入れる商品の種類も変わる。

学校の近くなら、学生がよく選ぶ飲み物が多くなる。駅のホームなら、朝に買われやすい商品が中心になる。

海水浴場の近くなら、飲み物に加えてタオルや日焼け止めを置く機械も出てくる。雨の日が多い場所なら、折りたたみ傘やレインコートを扱う機械も考えられる。

同じ会社の自動販売機でも、設置場所や季節によって入っている商品が違う。

しかも、売れ行きだけでは判断しない。

ある商品が一日に一個しか売れなくても、毎週同じ人が買っているなら、その商品を残しておく。

たくさんの人に売れる商品だけでなく、少人数に何度も選ばれる商品にも置く意味が出てくる。

補充する商品も変わる

商品の減り方を見ているのは、補充する人だけではなくなる。

朝にコーヒーが集中して売れる場所なら、昼になる前に追加する。気温が上がる日は冷たい飲み物を多めにする。休日になれば、平日とは違う商品を用意する。

補充担当者には、「明日はこの商品を多めに入れてください」という情報が届く。

これまでなら、売れ残った商品を減らし、よく売れる商品を増やすだけだった。

それが、時間帯や天気、過去の購入傾向まで見て補充量を決めるようになる。

自動販売機の中身が空になってから補充するのではなく、売れ方を予測して先に運ぶ。

補充する仕事も、商品を入れるだけではなく、どの場所へ何を運ぶかを考える仕事に変わっていく。

飲み物以外も出てくる

商品を選べるなら、飲み物だけに限る必要もない。

駅では小さなお菓子やハンカチ。学校の近くでは消しゴムやペン。海の近くではタオルや日焼け止め。雨の日には折りたたみ傘やレインコート。

自動販売機が周囲の状況と、その場所でよく買われる商品を組み合わせて、必要になりそうなものを選ぶ。

たとえば、雨の日に駅前の自動販売機の前に立ったら、いつもの飲み物ではなく折りたたみ傘が出てくる。

画面には「雨が降る予報です」と表示されている。

商品を受け取ってから、料金を払う。

飲み物を買うための機械だったものが、ちょっとした売り場になる。

コンビニまで行くほどではないけれど、今すぐ必要なものがある。

そんなときに、自動販売機が候補を出してくれる。

学校では何が出るかが話題になる

学校の自動販売機では、休み時間になると生徒が集まる。

普段からスポーツドリンクをよく買う人にはスポーツドリンク。水を選ぶことが多い人には水。寒い日には温かい飲み物が出てくる。

友達と一緒に使っても、同じ商品が出るとは限らない。

「今日は何が出た?」

そんな会話が増える。

自動販売機が選んだ商品を見れば、その人が普段どんなものを買っているのか、ある程度わかってしまう。

コーヒーばかり出てくる人もいれば、毎回違う商品が出てくる人もいる。

自動販売機の前で、商品の好みがちょっとした話題になる。

商品を作る側も変わる

自動販売機が一人ずつ商品を選ぶようになると、メーカーの商品開発にも影響が出る。

今までは、できるだけ多くの人に売れる商品が作りやすかった。

でも、自動販売機が細かな好みまで見つけられるなら、少人数に強く選ばれる商品にも意味が出てくる。

甘さが少し違う飲み物。香りの違うお茶。容量だけを変えた商品。

全体ではあまり売れなくても、特定の人が何度も選ぶなら、自動販売機はその商品を出し続ける。

「たくさん売れる商品」だけではなく、「この人にはよく選ばれる商品」が増えていく。

店頭では目立たなかった商品が、自動販売機を通すことで買われるようになることもある。

「選ぶ」時間が短くなる

自動販売機の前で商品を選ぶ。

今までは、それが買い物の一部だった。

でも、先に商品を選んでもらえるなら、利用する人は「これを買うかどうか」を決めればいい。

駅で立ち止まる。

受け取り口には、今日の商品が一つ出ている。

気に入れば料金を払う。違えば取り消して、別の商品を選ぶ。

自動販売機の前で何十秒も商品を見比べる人は減っていく。

その代わり、「今日は何が出てくるのか」を見るために自動販売機を使う人も出てくる。

同じ自動販売機でも、朝に来る人と夜に来る人では出てくる商品が違う。

駅の自動販売機が、そこを使う人それぞれに違う売り場を見せるようになる。

自分で商品を探すのではなく、先に候補を一つ渡されて、それを受け取るか選び直す。

そんな買い物が当たり前になれば、自動販売機の役割も少し変わる。

商品を売る機械ではなく、毎日の買い物の中から「次に何を選ぶか」を先に出してくる機械になる。


※ この文章は空想です。現実の世界では、無理なことを試さないでください。
← 記事一覧