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もしも、冷蔵庫の中だけ時間が半分の速さで進んだら


もしも、冷蔵庫の中だけ時間が半分の速さで進んだら。

冷蔵庫の外では、いつも通り一日が24時間。でも冷蔵庫の中では、その間に12時間しか進まない。朝、買ってきた牛乳を冷蔵庫に入れる。外では夕方になり、夜を過ごして次の日の朝になっても、牛乳からするとまだ前の日の夜くらいしか時間がたっていない。

もちろん、冷蔵庫が冷たいことは今と変わらない。ただ、冷蔵庫の中にあるものだけ、時間の進み方がゆっくりなのだ。

最初に喜ぶのは、食品かもしれない。

食べ物がなかなか古くならない

冷蔵庫に入れておけば、食べ物が今までより長持ちする。昨日買った肉を今日食べても、肉にとってはまだ半日しかたっていない。作り置きのおかずやケーキも同じで、冷蔵庫の中にいる間はゆっくり古くなっていく。

「冷蔵庫に入れておけば、かなり長く保存できる」

そんな考え方が普通になるだろう。

食品を買ったら、とりあえず冷蔵庫へ入れる。食べる予定がなくても入れておく。すると、冷蔵庫が大きい家ほど、たくさんの食品を長く保存できることになる。

今より大きな冷蔵庫が人気になるかもしれない。

冷蔵庫が食料庫になる

保存できる期間が長くなるなら、まとめ買いをする人も増えそうだ。一週間分だった買い物が二週間分、三週間分になり、冷蔵庫の中はどんどんいっぱいになる。

すると今度は、「たくさん入ること」より「何が入っているか分かること」が重要になる。

冷蔵庫の中身を管理するアプリが登場し、「牛乳は左から二番目の棚」「カレーは奥にあります」と教えてくれる。

せっかく時間をゆっくり進ませられるのに、今度は食品を入れすぎて見つけられない。

冷蔵庫が、家庭の小さな食料庫のようになっていく。

スーパーの裏側も変わる

家庭だけでなく、スーパーもこの仕組みを利用する。

売れ残った食品を冷蔵室に入れておけば、外の時間ほど早く古くならない。もちろん、いつまでも保存できるわけではないが、食品が古くなるまでの時間に余裕ができる。

そこで、スーパーの裏側には巨大な冷蔵室が作られる。肉や魚、ケーキなど、売り場に出す前の商品がそこに並ぶ。

食品会社も、冷蔵したまま食品を運ぶようになる。今までより長い距離をかけて、遠くの工場から商品を運ぶことも普通になるかもしれない。

食品を「どれだけ早く運ぶか」だけでなく、「どれだけ冷蔵したまま運べるか」が重要になる。

「何日たった?」が少し面倒になる

ここで、変な問題が出てくる。

冷蔵庫の中と外では、時間の進み方が違う。だから食品の古さを考えるとき、「買ってから何日たったか」だけでは足りない。

たとえば、朝に買った肉を昼まで冷蔵庫に入れ、そのあと夕方まで机の上に置き、夜にまた冷蔵庫へ入れる。

食品が実際にどれくらい時間を過ごしたのか、だんだん計算が面倒になる。

そこで冷蔵庫に、食品が中に入っていた時間を記録する機能がつく。

「冷蔵庫の中に20時間、外に8時間」

そんな情報が表示される。

賞味期限を見るだけではなく、「この食品は冷蔵庫でどれくらい過ごしたか」まで確認する生活になるかもしれない。

食べ物以外も入れたくなる

時間がゆっくり進むなら、食品以外にも入れたくなるものが出てくる。

たとえば花だ。

花を冷蔵庫に入れておけば、しおれるまでの時間もゆっくりになる。誕生日にもらった花を長く残しておきたい人には便利だ。

そのうち、植物をゆっくり育てたい人が出てくるかもしれない。

「この苗は冷蔵庫で育てています」

そんな家庭菜園が始まる。

ただ、植物には光や水も必要なので、普通の冷蔵庫では育てにくい。そこで、植物用のライトがついた「育てる冷蔵庫」が登場する。

食べ物を冷やすための家電だったものが、植物を育てる場所にもなっていく。

人間が入ったらどうなる?

ここで、もっと気になることがある。

もしも人間が冷蔵庫の中に入ったら、どうなるのだろう。

普通の冷蔵庫には入れないので、人が入れるくらい大きな冷蔵庫が作られる。

中に入って扉を閉める。外で一時間が過ぎても、中にいる人にとっては30分しかたっていない。

時間をゆっくり進めるための部屋として使えそうだ。

たとえば、旅行に行く前に中で休む。外では二時間たっているのに、自分は一時間しか休んでいない。

ただし、巨大な冷蔵庫なので当然かなり寒い。時間はゆっくりでも、体までゆっくり冷えるわけではない。

人が使うなら温度を高くする必要がある。

そうなると、もう冷蔵庫とは呼びにくい。「時間を遅くする部屋」という新しい施設ができるかもしれない。

仕事に使うと、むしろ不思議になる

もし安全に人間が入れるなら、仕事に使おうとする人も出てくる。

その部屋の中で作業すると、外では一時間たっているのに、中では30分しかたっていない。

一見すると時間を節約できそうだ。

でも、中にいる人が使える時間そのものは増えていない。

外の人から見れば一時間たっているのに、中の人は30分しか働いていないからだ。

それどころか、家族と一緒に過ごしているのに、一人だけ時間が遅くなるという問題も出てくる。

時間の進み方が違う場所を人間が自由に行き来できるなら、生活の感覚そのものが変わってしまう。

食品には便利でも、人間には少しややこしい道具になる。

それでも冷蔵庫は進化する

一方で、食品の保存にはあまりにも便利だ。

食品会社は、冷蔵庫の中で時間がゆっくり進むことを前提に商品を作るようになる。

お弁当も、冷蔵庫から出して持ち歩く時間が重要になる。朝に冷蔵庫から出して学校へ持っていけば、そこからは普通の速さで時間が進む。

だから、「食べる直前まで冷蔵庫に入れておく」という習慣が今より大切になる。

コンビニでも、商品を店頭に出す直前まで冷蔵室に入れておく。家庭でも、朝食べるヨーグルトを前日の夜から冷蔵庫に入れておく。

冷蔵庫の中にいる時間を、みんなが意識するようになる。

最初は、「食べ物が長持ちして便利だな」くらいの話だった。

でも、冷蔵庫の中で時間が半分しか進まないなら、冷蔵庫はただ食べ物を冷やす機械ではなくなる。

食品を一時的に、時間から遠ざける場所になる。

買ったばかりの肉。昨日作った料理。もらった花。育てたい植物。

大切なものを、とりあえず冷蔵庫に入れておく。

そのうち家の中には、食べ物を入れる冷蔵庫と、食べ物以外を入れる冷蔵庫が並ぶようになるかもしれない。

そして誰かが、何年も開けていない冷蔵庫の扉を開ける。

外ではずいぶん時間がたっている。

でも、その中ではまだ半分しか時間が進んでいない。

「これ、いつ入れたんだっけ?」

そんなふうに、時間がゆっくりになったせいで、今度は物をしまったこと自体を忘れてしまう。

冷蔵庫の奥には、食べ物だけではなく、時間まで少しずつたまっていく。

そうなると、その冷蔵庫を何十年も開けずにいたら、中にはいったい何が残っているのだろう。


※ この文章は空想です。現実の世界では、無理なことを試さないでください。
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